2020-07-19

② チョイス で語られなかったこと 多汗症患者さんたちの声

今回、Eテレチョイス@病気になったとき「多過ぎる汗の悩み」 の取材の際、事前の打ち合わせでお願いしたことがありました。

藤本:多汗症の治療選択肢のチョイスの中に、`あえて治療をしない’ というチョイスも含められませんか?と。

これは、長年診療をする中で多くの患者さん達とお話しし、治療を提供し、少しでも汗の悩みを解決していくという立場から提示するというのは、一見全く逆であり、とんでもない!とお叱りを受けるかもしれません。今日はそのことについて少し掘り下げておハナシをしていきたいと思います(長いです。長すぎますが・・・よろしくおねがいします)。

私が多汗症をはじめてみたのは2005年の東京医科歯科大学の発汗異常外来という専門外来をはじめてからとなります。当時は患者さんを目の前にするものの、その悩みも初めて聞くものですし、圧倒的な経験不足の前にどう向き合ったらいいのか自らも悩みながらの診療でした。汗で日常生活がしにくくなることはもちろんですが、さらにみなさんを苦しめていることは、`親しい人にも打ち明けられない’`悩みを共有できる人がいない’という孤独感でした。

これは、まず多汗症という状態で困っている人が沢山いることを認知してもらうことが必要ではないか。そんな中で、ふくろう皮膚科を開業した当初、休日のクリニックで、少人数で多汗症の患者さん達と話し合いの機会を何回かもつことができました。そこでは、診察室の短い時間では聞くことができなかった多くの悩みを参加者と共有できました。中でも私の心に強く残った言葉は、`ピアノの先生に汗が多いので何とかしなさいと言われてトラウマになった。親にも理解できないので、誰にも話すことができなかった。このように同じことで苦しんでいる人と話を共有できてよかった。小さくて悩んでいる子供のころに、こんな風に汗のことを相談できたり共有できるような場があったらよかった。’というお話でした。

それから3年、多汗症で悩んでいる人たちがSNSやツイッターなどで自分の経験をお話したり、共有するために集まったりする場があるんだよということを診察室で患者さんから聞くことがちょくちょくありましたが、実際にお会いして共感した方2人、ご紹介します。

一人は守矢奈央さん、彼女は掌蹠多汗症であることを公表し、ご自分で多汗症の人が生活しやすい靴下などの製品を作ったり(athe)する傍ら、多汗症の人とのコミュニティーを開く場を提供したいと活動されています。去年の発汗学会で、専門家の学会の中、果敢にも学生の時に研究された研究結果をもって発表された姿に感銘しました(例えると、アマゾンの希少部族の中にカメラマンとして乗り込む、くらいの勇気がいります👏ふつうできませんね)。twitter.com/nao_athe?fbclid=IwAR2lx4Rt3booJuqvAguwhX0tv9iQTJD4Yf2wRIboW3WwBR_EncK7aVCpnrY

 

もう一人は本間洸貴さん。彼は掌蹠多汗症でご自身も掌蹠多汗症で悩まれて、14歳の時に胸部交感神経遮断術(ETS)を受けられ、その後も手術の副作用である代償性発汗と向き合いながらフリーランスで映像制作の仕事をされています。多汗症のことで悩みに悩んできた彼は、クラウドファンディングで多くの人から応援され、ドキュメンタリームービーを作成するに至りました。彼とは、映像の作成する過程で私の論文引用の掲載許可申請の時に丁寧なお手紙をクリニックあてでいただいたことで知り合いになりました。

このような出会いの中で、多汗症が認知されていくことで悩みを他の人にも理解してもらい、多汗症という状態を個性と受け止めて前向きに治療をしないという選択肢も、立派なチョイスなのではないか。と思ったのでした。結果的には、今回のEテレチョイスの番組としては、治療のチョイスという趣旨があるため、今回は治療しない選択肢については見送られることになりました。この場で、お二人がやっている活動を紹介させていただきたいと思います。

患者さんの会も不定期開催で行っているとのこと、これからも当院でも開催時にはお知らせをリンクしたいと思います。

最後に、とはいえ、これから多汗症の治療方法については、これだけ多くの困っている人がいるのです。新しい治療が今後でてきて、チョイスの数が増えてくると思います。そのことについてはまたの機会で取り上げていきたいと思います!

 

上 守矢奈央ちゃんと、2019年発汗学会で初対面 ‼ 

下 Voice上映会+患者会 2019年冬。本間洸貴さんと守矢奈央さん開催にお邪魔させていただきました。名古屋から参加された方もおられました。みなさんツイッターなどで、お知り合いだったようで、〇〇で書き込んでいます。おおー、あなたがそうでしたか。と、初対面と思えない出会いを見せていただきました。

 

院長  藤本 智子